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第4章「ゴールの先に…」俺達はあれから 1 ヶ月、毎日同人誌を作るために放課後ロムレットに集まっていた。店番は俺と乃絵美が交互にやり、やらない方は真奈美と同人誌を作るという生活を続けていた。 「菜織ちゃんが話しかけてこなくなって、もう 1 ヶ月になるね」 「菜織ちゃん相当ショックだったみたいだし、お兄ちゃんにも悪い事したかな。原因はすべて私だから」 「乃絵美ちゃんだけじゃないよ、私も目覚めていた血が沸き立つ気がしたから」 かりかり、かりかり 真奈美が乃絵美にぽつっと、言った。その会話はトーンを切っている俺にも聞こえてきた。思えば、陸上大会が終わって1ヶ月しか経っていないのに、俺達の生活はがらっと変わってしまった。今まで走ることしかしなかった俺が、同人誌を作っている。いつも傍らで見守ってくれていた菜織がいない。そのかわり、毎日真奈美と過ごすことが出来ている。どちらが良いかはわからない。だが、一つ言えることは菜織には戻ってきてほしいと言うことだった。 なんか無性に複雑な気分になった俺は、二人の会話を止めに入った。 「はいはい、そこ二人。しゃべらない。入稿期日まであと何日だと思っているんだ?」 「真奈美ちゃん、お兄ちゃん変わったと思わない?」 「うん、陸上をやっていたときのさわやかさが無くなったかなぁ。そのかわりに、すごくヲタクっぽくなっちゃって」 「真奈美ちゃん、それ禁句だよ。だって、私たちだって毎日魔女っ娘の絵ばっかり描いているんだから、だれから見たって正真正銘のヲタクだよ。」 「それもそうだね、でもあれだけ初めはわからない、だるい、って言っていた人が一番働いているなんて、私たちももう少しがんばらないとね」 「お兄ちゃん、何でもすぐ真剣になるのはとてもいいところなんだけどね。ちょっと怖くなったのが残念だよ」 どうも俺の言葉に棘があるようだ。俺は変わったつもりがないのだが、変わったと言われるとそうなのかもしれない。毎日のようにトーンを切っていればおかしくもなるだろう…そう思うとなんとなく苛ついてくる。本当、ばか。 「おまえら、話し声聞こえているぞ。ペンまで全部終わったのか」 「もうちょっと待ってね、もうすぐ出きるから」 今度は、乃絵美もご機嫌を取るように返した。 重いため息をついたとたん、突然、部屋の扉が開いた。奴だ。 「おお、やっているか同志。まさか落としたりしないだろうな!」 ほら、やっぱり。 「大志さん、見ての通りあと 10 ページで完成だよ」 「がんばったもんね、乃絵美ちゃん」 「よしよし、で、表紙はどれなんだ?」 「まだラフだけど、これかな」 大志の質問に答え乃絵美がラフを見せた。 それを見た大志の形相が豹変する。 「ぬわんなんだこれは!表紙買いをするヲタクどもを引き寄せることが全く出来ないではないか、これでは!表紙こそ、同人誌の命と言っても過言ではない!表紙がよければ全てよし!売れてしまえば、こっちのもん!」 真奈美が恐る恐る反論する。 「前に言われていたコミケの精神とかけ離れているような気がするんですが…」 確かに真奈美の言うとおりだ。徹夜禁止やらなにやら、ひたすら崇高な話を聞かされたが、これでは何の価値もなくなってしまう。 「くっ…我が輩としたことが、つい熱くなってしまった…。しかし、表紙が必要なのは事実。売り上げが倍近く変わってくるだろう。こんな普通の絵ではダメなんだ。やはり、魔女っ娘と言えばステッキ。これを振りかざして空から飛んでくるような表紙がいい。強いて言えば、エミだ!」 「上から降ってきてシャボン玉が下からわいてきて、真ん中で手をクロスしてくるくる回るとシャボン玉に囲まれて変身するという、あのエミだよね?」 「さすがは同志・真奈美。以前から感じていたが、すばらしい知識だ」 また始まった、大志と真奈美の魔女っ娘談義。これが始まると長い。今回も 20 分ぐらいは続いた…俺と乃絵美はただただ呆然と待つしかない。 「真奈美ちゃん、十分、ヲタクだよ」 「うるさい、乃絵美ちゃん」 乃絵美、ナイスつっこみ。もう、ざぶとん 10 枚ぐらいあげたい気分だった。 「ということなので、がんばってくれたまえ」 「じゃあ、乃絵美ちゃん私がラフ描くので後で清書してね」 「OK、真奈美ちゃん」 なんかしらんが、そういうことで決まったようだ。もういい、勝手にしてくれ。 |