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第2章「走り始めた理由」大会が終わった次の日の放課後、いつものように菜織は声をかけてきた。 「さて、今日もトレーニングに行くんでしょ?」 「行かないよ」 「あなた、もしかして本当にコミケに行くつもり?」 「そうだ。昨日約束したからな」 「信じられない…今までずっと走り続けてきたことはどうなるのよ?そんな事で走りをやめていいの?」 「ああ。今まで俺は夢中になれることに走ってきたんだ。それが、走ると言うことだった。しかし、今の俺は走る事からコミケに参加する事に変わった。ただ、それだけだ。走り続けている、夢を見続けていることには変わりないんだよ」 しかし、これは本当ではなかった。確かに、俺は走るのが好きだ。しかし走り始めた理由は真奈美だった。小学生の頃の話で、菜織がそれを実現するためにつきあってくれていることや、菜織自身が俺のことを思っていてくれていることは薄々感じていた。しかし、俺には乃絵美との約束を破ることはいくら菜織の頼みでも受け入れられず、延々と10分以上説得されたが、結局平行線で終わった。 「…もういいわ」 とうとうあきらめた菜織は、大きなため息をついて教室から出ていった。 「菜織ちゃん、ショック大きかったみたいね」 いつの間にかそばに来ていた真奈美がつぶやいた。 「仕方ないさ。今までずっとつきあってきてくれていたんだから、ショックも大きいだろう…さて、帰るか」 「いいの?菜織ちゃん放っておいて…」 「今は、なにを言ってもダメだろうし」 「…そうだね」 俺達は菜織を放って帰った。部活で先や後に帰ることはあっても、声もかけずに帰るということは今までには一度もしたことがなかった。その日のロムレットまでの道は少し重い空気が漂っていた。 |